別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
兄の力を借りられるならそうしたい。


「私……事件以前のことはどうしても思い出せなくて。陸人さんとの思い出まで……。ごめんなさい」


彼と私の間に、どんな素敵な時間が流れていたのかを思い出したい。

けれども、斬りつけられた瞬間以外はなにも浮かばない。


「謝らなくていい。思い出さなくていい。こうしてそばにいてくれるだけで十分だ」


再び私を抱きしめた陸人さんの声が震えている。

もうすべてを彼にゆだねてしまいたいという気持ちがあふれそうになるけれど、本当にそれでいいのか判断がつかない。


「ママー」
「あっ、凛」


そのとき、凛の泣き声が聞こえてきた。
目覚めたら見知らぬ場所で驚いたのだろう。


「ママはここよ。今行く」


大声で応えてから頬にこぼれた涙を拭いて寝室に向かった。

ドアを開けると、凛が「ママー」と抱きついてくる。


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