別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
陸人さん、そんなふうに泣いてくれたんだ。


「もちろん、天沢くんが悪いわけじゃないとわかっていた。でも、大切な娘が命を脅かされるような危険な目に遭ったあとでは、冷静に物事なんて考えられない。とにかく、心春を守りたい一心だった」

「お父さん……」


膝の上の手をギュッと握りしめて、あの頃の感情を吐露(とろ)する父は、大きく息を吸い込んでから続ける。


「でも、天沢くんが病棟の廊下で、『神さま、僕の命を心春ちゃんにあげて』と涙を流しながらつぶやいてたのを見てしまったんだ」


陸人さんが?

初めて聞く事実に目を瞠る。

絵麻が陸人さんらしき男の子を見たと話していたが、やはり彼だ。
会えなくても病院に通ってくれていたんだ。


「心春。お前が姿を消した理由は謙一から聞いた。天沢くんの足かせになりたくなかったんだな」


父の問いかけにうなずく。


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