別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
慌てて言うと、彼はおかしそうに肩を震わせ始めた。


「なんで? 俺はうれしいけど? 白衣を脱いだら、いたって普通の人間だから。気を使われると話しにくいから、もう忘れて」


たしかに、食彩亭の弁当をうれしそうに買っていく彼は、ごく普通の紳士だ。


「次、なにやればいい?」

「それじゃあ、白菜を洗ってください」

「了解。俺、職業柄切るのはそこそこできるんだけど、味付けがさっぱりで」


切るって。
メスと包丁とを一緒にしないで。手術のほうがずっと高度に違いない。

彼の言い方がおかしくて、笑いが込み上げてくる。

どうやらそれほど恐縮しなくてもいいようだ。
それからはリラックスして調理を続けた。


テーブルにできあがった料理と肉じゃがを並べてふたりで手を合わせた。
すると彼は「うまいなぁ」と目を細めながら食べ進め、どれもこれもあっという間になくなった。


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