マリアの心臓
気づけなくてごめん。
ごめんな。
『不甲斐ない兄ちゃんでごめん……! マリアのこと、大好きなのに……愛してるのに……ボクは、何も……っ』
何も守れなかった。
傷ついただけだった。
片時も離れなきゃよかった。
どんな声も、聞いてやればよかった。
こんなんじゃ、愛も何も伝わりっこない。
『お兄ちゃん』
『っ、』
涙のしみた傷口を、そうっと小さな手のひらがなぞる。
じんわりと温もりが帯びていく。
きらり。視界に、雨が降った。
『ちゃんと伝わってる。想ってくれてること、だから傷をつくったこと……伝わってるから、愛したいと思うんだよ』
ひさしぶりに見た。
マリアの、泣き顔。
渇いた肌の上を、ふんだんに光の浴びた雫が濡らし、可憐に咲かせている。
まるで、恵みの雨のように。
『お兄ちゃんが、お兄ちゃんでよかった』
いつも、ボクばっかり、救われている。
『傷、ちゃんと治してね』
『……っ、うん』
『今日はぐっすり休んでね』
『ははっ……ん、わかったよ』
『明日が来たら……笑ってね』
『うん、明日になったら、また』
ボクは自慢のお兄ちゃんになって。
幸せにするよ。
一緒に、幸せになってみせるよ。
今度こそ。
『あ……ボク、学校に荷物置いたまんまだ。一旦戻らないと』
『……そっか……。さびしいな』
『またすぐ会えるよ。もう少ししたら母さんも来るだろうし』
いやに目立つ傷が絆創膏で隠されると、元気が湧いてくる。
かわいいかわいい妹が手当てしてくれた効果にちがいない。
虹の架かったようなボクとは対照的に、マリアの表情は雲のかかる月夜のように切なく、美しかった。
『さよなら』