マリアの心臓
「優木まりあ」
先生と別れた直後。
また、誰かに呼び止められた。
今度は少し高めの、きつい声音。
「ちょっとついてきて」
「……へ?」
見知らぬ女の子が5人ほど、行く道を塞いだ。
お友だち……?
記憶の中にこの子たちいたっけ……?
「早く」
「は、はひ!」
困惑しつつ、とりあえずうなずいてみる。遊びの約束でもしてたのかな。
おとなしくついていけば、女の子たちはそろいもそろって目を疑った。
「罵声のひとつやふたつ飛ばすと思ってた」
「心入れ替えたってうわさ、まじだったんだ」
「い、いや……その……入れ替えたのは心っていうか……」
心臓のほう、なんですよね。
「なに、ずる休みしてる間に修行でもしてきたの?」
「滝行とか? アハハ!」
「あ、事故に遭ってキオクソーシツとか?」
「ドラマの見過ぎかよ! ギャハハ!」
訂正を入れる暇もなく、笑い声が絶え間なく満ちる。
場所を気にせずバカ笑いできるの、いいな。
病院だとうるさくて注意されちゃうから。
アタシも今、お腹抱えて笑ったら、あの輪に自然と入れるかな。……変だよね、うん。
「今さらいい子ちゃんになってあのヒトの気を引こうって?」
「あ、あのヒト……?」
「しらばっくれないで」
唯一、一切笑わない、ポニーテールの女の子。
ずっと怒ってる。
ずっと、泣くのを我慢しているような顔をしてる。