マリアの心臓
――ドンッ!
不意に背中を強く押された。
よろめきながら躍り出た、その先は。
体育館の、ステージ。
「な、なんで……」
「連れて来てやったわよ!」
ポニーテールの女の子が、わざとアタシと声をかぶせて叫ぶ。
ステージの下へ。
「その女が、うわさの悪女?」
そこには、20人ほどのガタイのいい男の子が、待ちかまえていた。
品定めするようなぎらついた目つきに、本能的にあとずさってしまう。
「へーえ、意外とかわいーじゃん」
「神亀の姫だろ?」
「は? 水附衛のヤツ、カノジョまでいんの? だる」
ジンキ? 姫……?
何のこと?
いったい、どういうことなの?
「バカ言わないでよ。あんな悪女が姫なわけないでしょ」
「あ、ちげえの? ま、どっちでもいーけど」
「あいつを潰せるならな」
「……あの子を人質にとっても無駄だとは思うけど」
ポニーテールの女の子が鋭利な一瞥をくれる。
「お姫さまぶれるのも今のうちよ」
「え……?」
「自分がイタイ女だって、自覚しなさい」
痛い? アタシ、今は健康だからどこも痛くないよ……?
きょとんとするアタシに、彼女はふんっと鼻を鳴らし、他の女の子たちを連れて体育館の隅へ行ってしまう。
えっ、アタシのことはここに放置?