マリアの心臓
〇
『まりあ♡エイちゃん』
見つけちゃった。
彼女自身すらまともに参加できずにいた授業をきちんと6時間目まで受け、帰りの支度をしている最中。
机の隅っこのほうに、かわいらしい落書きを見つけた。
消えかかっていて気づかなかったけど、ふたつの名前は、大きな相合傘に守られている。
「……ほんとに好きなんだなあ」
高校で過ごした記憶は、たった2週間程度。
なのに、そのほとんどが、彼との時間だけで埋め尽くされている。
『黙れよ』
『失せろ』
なんて、散々ひどい目に遭ってるようだけど……。
なぜかドキドキは止むことはない。
初恋もまだなアタシでも、恋のキューピッドになれるかな。
「優木! 優木まりあ!」
「……あ、アタシのことか」
教室を出ると、誰かに呼び止められた。
担任の先生だ。
つるぴかな頭をした、お坊さんみたいな男性で、朝から気にかけてくれていた。
「体調はどうだ? ひさしぶりでちょっと疲れたろ」
「いえ! とっても楽しかったです!」
「おっ、そうか?」
「はい! 先生の古文の授業も、暗号解読してる気分でわくわくしました!」
アタシの知らない世界だらけだった。
知るきっかけもなく、散ってしまうところだった。
あぁ、神様、ありがとう!
「……ほう」
「先生……?」
「退院してから、別人みたいに明るくなったな。よかったよかった」
えっと……実は、別人、なんです。
って言っても、信じてもらえないよね。