マリアの心臓
「女も女で大変そうだな」
金髪の男の子が、軽い身のこなしでステージに上がってきた。
着崩した制服、それから体格のせいか、同い年にはどうも見えない。
センパイ、だろうか。
それなら、彼らにタメ口をきいてるポニーテールの女の子も、センパイなのかも。アタシ、冴えてる!
だとしても……こんなところで集まって、何を?
「安心しな、悪いようにはしねえから」
「え? は、はあ……」
「俺らとあんたじゃ『悪いこと』の意味がちげえかもしんねえけど」
クスクスと笑い声があちこちから聞こえる。
気づけば、ステージ真下まで他の男の子たちが押し寄せていた。
「だいじょーぶ、楽しませてやるよ」
「楽しむ……?」
悪いことじゃなくて楽しいこと、って何だろう。なぞなぞみたい。
鉄バットとか持ってるし……あっ、野球? 室内で? できなくはないけど……。
「だから……逃げんじゃねえぞ」
急激にどす黒くなった形相。
一変した空気のなか、脈は規則的に刻み続ける。
「逃げるって、どうして」
どうして。……どこへ、逃げるというの?