マリアの心臓



「さ、こっちよ」

「え、ちょ……!?」

「一緒なら怖くないわ」




アタシがお姫さまで。
王子さまを探しに行くなら。

彼らは、さしずめ、騎士だろうか。




「騎士のみなさまが、いてくれるなら」




ステージの下にいるみんなに向かって、大きく腕を広げる。

愛嬌たっぷりの笑顔も忘れずに。


アタシ、ちゃんとお姫さまらしくなれてるかな?




「騎士……いい響きだな……」

「よくわからんがキュンときた」

「水附衛を探しに行くってことか? は??」

「あの子がめっちゃかわいいってことだけはわかる。うん、かわいい」

「おまえら、ちょろくね?」

「そういうおまえだって鼻の下伸びてんぞ」




いつもの合図「1、2の3」で、ステージから飛び降りた。

ちょっとよろめいちゃったけど、金髪の男の子に支えられ、見事着地。


こんなに激しく動いても、アタシ、びくともしてない。

なんてすばらしき世界!




「ちょっと! ほだされないでよ!」




歌でも歌っちゃおうかなと考えていた矢先。

観客のはずのポニーテールの女の子から、叱咤を飛ばされた。




「気味のわるい寸劇に付き合ってないで、黙らせなさいよ!」




き、気味のわるい……!?

ガーン……ショック……。


姫役として全然だめだめだったのかな。
もしかしたら元の台本とだいぶちがったのかも。


劇の途中だというのに肩を落としてしまったアタシに、周りの男の子たちは「だ、大丈夫か!?」「気味わるくねえよ!」「かわいいよ!」と励ましてくれる。

みんな……初対面なのにやさしい……。

本物の騎士さまみたいですね、とお礼とともに伝えれば、彼らの表情がこころなしか明るくなる。


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