マリアの心臓



ひと段落ついたタイミングで、ブオオオン! とバイクのエンジン音が駆け巡った。




「あ……! エイちゃん!」




一台の深い青色のバイクが、ちょうど目の前で停まった。

フルフェイスタイプのヘルメットをとったエイちゃんは、訝しげに眉をひそめる。




「鈴夏、羽乃、なんでこいつといるんだ」

「なになに嫉妬〜?」

「するかボケが」

「今日の衛は当たりが強いなあ」




強いかな? いつもこんな感じじゃ……? あれ? アタシ、冷たくされすぎて麻痺してる?




「ボク、たった今から、優木まりあの恋に応援派になったから」

「は!? 心変わり早いな!?」

「羽乃にだけは言われたくない」

「くっ……言い返せねえ……!」

「追うのは自由だからね。追うだけ追って、挫けて諦めるの応援してる」

「……それ、ほんとに応援してるか?」




思い返せば、周りにいる子はみんな、追いかけていた。

ウノくんに告白した女の子も、鈴子さんをナンパしたお兄さんがたも。他にも、恋愛に問わず、みんな。

それぞれ、想いを、本気でぶつけていた。


優木まりあだってそうだ。



……アタシも、がんばらなきゃ。

会えたら言わなきゃと思っていたんだ。


あの2文字を。


いつまでも余韻を引きずってちゃいられない。



アタシは、今、優木まりあなのだから。




「す……っ、ちゅき!」




あ。噛んだ。




「ちゅ、ちゅきって! ははは! かわい!」

「優木、珍しいな。緊張してんのか?」




き、気合いを入れすぎただけだもん……!

もう一回、言い直すべきなんだろうけど、押せ押せなアピールはアタシにはまだ早かった……かも。




「いつも、ドッカーン!って感じなのに、今日は、ぴちょん……って感じなんだな!」

「は? 例えわかりづら」

「……おまえら、たまり場行くぞ」




エイちゃんだけ無反応……!

で、でも、拒まれなかっただけ、一歩前進だよね!

受け取ってもらえたかは……わからないけど。



想いが本気かどうかは、きっと、言葉じゃないところからも届いている。


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