マリアの心臓



地に足をつけて、陽の光を浴びて、生きている。

だから、アタシは、大丈夫。




「……なんで笑ってんの?」




光の及ばない黒目に、貫かれる。


何か癪に障ったのか、胸ぐらをつかむ手が勢いよく振り払われた。

手の骨の固い感触が、ゴンッ!!と胸部を叩きつける。


ぐらり、心臓が揺れた。




「っ……けほっ……」


「か弱いふりすんな。これじゃ、うちらが悪者じゃん」

「あんたにされてきたことを、返してやってるだけだよ」

「これがふつうなの。当たり前なの。だから……」




手が振り下ろされるのが見える。

見えているのに、体が竦んで逃られない。

たちまち心音が不安定にぶれていく。


あぁ……こっちの痛みは、ちょっと、つらいかも。




「うちらはあんたを傷つけてもいいってことだよ!」


「――そんな“ふつう”、知らなかったな」




ふわっ、と。

うしろから温もりに包まれた。




「おっかねえ常識、知ってんだね?」

「す、鈴夏センパイ……!? うそ!? まじ!? 本物!? なんで!?」




彼は、サプライズ的な登場がお好みらしい。


ほんの一回、まばたきをしたその間に。

アタシの身をかばいながら、ビンタしようとした女の子の腕もばっちり止めていた。



驚きのあまり彼を見つめて硬直していれば、



「いとしのエイちゃんじゃなくてごめんね」



なんて冗談ぽく言って、緊迫を和らげてくれる。


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