マリアの心臓
〇
一日エイちゃんに会うことがないまま、放課後になった。
毎日1回は「好き」って言うことをノルマにしようと思っていたのに。
達成できなかったなあ。
また優木まりあらしさから遠のいちゃった。
どうしようかと思い悩みながら、帰路をたどる。
「次の舞台は、倉庫にする」
「またやんのか。懲りねえな」
「あんたたちは言うことを聞いてればいいの」
通り過ぎた細い路地から、なにやら怪しげな会話が。
先導しているのは、記憶に新しいソプラノの音だ。
反射的に一時停止し、二歩ほど戻る。
あの声は……。
「前回みたいに手荒な真似はしないでよね」
「えー、どうしよっかなー」
「ちゃんと台本どおりに動いて。いい?」
黒い髪に、ジャンパースカート。
やっぱり鈴子さんだ!
それに一緒にいるのは……前にナンパしてきたお兄さんがた!?
な、なんで一緒にいるんだろう!?
またナンパされてる!?
でも、そういう雰囲気には見えない。
昼休みのときのような険悪さもない。
舞台とか、台本とか言って……ハッ!
アタシ、わかっちゃったかも。
今、劇の準備中なんだ! きっとそうだ!
これから青春がバーン!と披露されるんだ! まちがいない!