きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
約束
金木犀の甘い香りが、学校中を包み込む。

つい最近半袖から長袖へブラウスを変えたのに、それでも少し肌寒いと感じてしまうほど、季節はあっという間に過ぎていく。


宮本くんが所属しているバスケ部は順調に県予選を勝ち進み、試合のために学校に来ない日も増えてきた。

授業中、先生の話を右から左へ聞き流しながら、彼のいない席をぼんやりと眺める。

彼がいないことは少し寂しいけれど、彼が頑張っているバスケがうまくいっていることは素直に嬉しかった。


「明後日、どうしようかな」

10月11日。宮本くんのお誕生日。

奇跡的に学校がお休みの土曜日だけれど、ウィンターカップの予選期間中と言うこともあり、夕方まで部活があるらしい。


「お誕生日当日、どこか行きたいところとか、したいこととかある?」

一ヶ月ぐらい前から聞いているにも関わらず、宮本くんは「部活の後、帰りながら話せるだけで十分」と笑うだけだ。

……私の誕生日は盛大に祝ってもらったのに、本当にそれだけでいいのかなあ。

彼が望まないことはしたくないけれど、本当にそれだけでいいのだろうか。


「何か悩み事?」

休み時間になり机にグダッと倒れながらため息をついていると、乱暴な手つきで頭をクシャクシャと撫でられる。

「……宮本くん!?」

「うん。なにか悩んでんの?」

「どうしているの? 試合は?」

「終わったからさっき来た」

ちなみに勝ったで、と彼は付け加える。

「おお、おめでと」

「まあ、ここまでは想定通りやな」

彼は私の前の座席の椅子に後ろ向きで跨ると、ジッと私と目を合わせる。

「それで? 何ため息ついてたん」

「いやあ、まあ」

「あなたのことで悩んでいます」とは言いづらい。

けれど、宮本くんの誕生日だ。宮本くんが喜ぶことをしたい。ここは恥を忍んで聞こう。

「明後日、宮本くん、本当に帰りながら話すだけでいいの?」

もちろん、学校までは迎えに行こうと思うけれど……。

「なんや、そんなことで悩んでんの?」

宮本くんは私の悩み事を明るく笑い飛ばすと、「うん、それで十分」と言う。

「そっかあ……」

彼の誕生日だ。彼が「それで良い」というなら、それに従うべきだよね……。

「高橋の家は、門限何時なん?」

「門限? 特に決まっていないけれど」

事前に連絡だけしておけば、とやかく言われることはない。

「それなら、ちょっと遅くなるかもしれへんけど、行きたいところあるわ」

「本当!?」

待っていました、とばかりに、私は食いつく。

「うん」

彼は机の上で両肘を立てて指を組む。

そこに顎をのせると、「プラネタリウム、行きたい」と微笑んだ。

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