きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
夢を見ていた
私の言葉が届いたのか、宮本くんはあの時以降、丸四日間話しかけてこなかった。

彼と話せないことに少し寂しい気持ちがあったのは否めないけれど、正直これ以上彼と関わって辛くて惨めな思いをしたくない気持ちの方が大きかった。


「おい、帰るぞ」

終礼が終わると同時に、座っている私の前に大きな人の壁が現れた。

「悠斗?」

「行くぞ」

彼は私の代わりに机の上にある荷物を適当にカバンに詰めると、勝手に私のカバンを持って教室から出ていく。

「え? ちょっと待って、悠斗!」

突然の出来事に何が起きているのかわからないまま、彼の背中を追いかける。

「いきなりどうしたの」

何度問いかけても答えてくれなかった悠斗がやっと口を開いたのは、家の近くにある公園にたどり着いた時だった。

いつも自主練をしているコートの隣にあるベンチへ私を座らせると、真っ直ぐ私を見る。


「俺の前では、無理しなくて良い」


「え?」

「何か辛いことがあったんだろ。俺の前では、無理して笑わなくていい。何か話したいのなら、聞くから」

「悠斗……」

それだけ言うと、彼はカバンの中からたくさんのお菓子を取り出した。

「ほら、食べろ」

「こんなの、あの日と同じじゃん……」

中学三年生の、あの日。悠斗に、恋をした日。

私は目の前のクッキーに手を伸ばす。

あの日は最初に何のお菓子を食べたかな。

些細なことで覚えていないのか、それとも「なにから食べようか」と悩むほど自分に余裕がなかったのか、どちらだろう。

「うん、美味しい」

クッキーの甘さを噛み締めるように、小刻みに首を縦に振る。

「だろ?」

「さすが悠斗」

「何年一緒にいると思ってんだ。いや、もう十数年か」

「そうか、そうだよね。もうそんなに長く一緒にいるんだよね……」

悠斗と一緒にいる時間の長さと比べると、宮本くんに恋をしていた時間はほんのわずかだった。

それに、穏やかな悠斗との時間とは違って、宮本くんに恋をしていた時間は荒波でサーフィンをしているようだった。

最初の印象は最悪だった。

口は悪いし、睨んでくるし。

でも、落ち込んだ時は……傍にいてくれたな。励ましてくれたな。
悠斗に彼女が出来て悲しんでいた時も、この公園で一緒にー…。

一筋の涙が頬を伝うと、それを追うように次々と溢れ出す。

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