夜桜
「誠守椿、只今戻りました。」

「おかえりなさい、 誠守さん。」

玄関先では、山南さんが待っていた。

「古高が捕縛されたと聞きました。」

「はい、今は沖田君と永倉君が拷問にあたっています。」

「そうですか。 土方さんは?」

私が言うと、土方さんが丁度廊下を通りかかり、私と目が合った。

「任務ご苦労。お前の言う通り、奴は升屋に身を寄せていた。何か妙な話をしていてな。今、拷問にあたっている。俺も今から行くところだ。」

「私も、お供させてください。」

「いいだろう、着いてこい。」

私たちの会話を聞き、山南さんは深いため息をついた。

山南さんの行動には疑問だったが、それに答えるかのように、口を開いた。

「自ら現場を見たいだなんて。残酷ですね。」

「はい?」

「貴方は血に飢えた鬼ですか?」

「え?」

山南さんの言っていることが分からず、私は首を傾げた。それは土方さんも同じだった。

「残酷がどうとか、人の心がどうとか、は関係ねえ。なんせこれは俺らの仕事だからな。あんたは、いつもそんなことを言っているが、これが俺たちのやり方だ。 異論があるなら、新選組にいないでくれ。」

「私は、和睦の道はないかと言っているんだ。」

「この世にそんなもんねえよ。 弱いものは負けて死ぬ。強いものは勝って生きる。 弱肉強食の世の中に生まれちまったから、強くなるのに必死なんだ。」

土方さんは鋭く言い放ち、その場を後にした。

土方さんと山南さんは、対立することが多くあると聞いたが、それがいつか、内戦を巻き起こすのではないかと、 隊士に心配をさせる程だった。

山南さんの言っていることは、古高が前に言っていることと良く似ている。

和睦の道……だがそれは、この時代には相応しくない言葉だった。

そのことは、山南さんも承知のはず。

人斬り集団新選組と呼ばれる組織に入っている時点で、山南さんは人斬りの一員だ。

山南さんの考えは、分からなくもないが、現実を見れば、平和の世を望むことは、雲を掴むような話だ。

「あの人を、あまりあてにするな。」

土方さんはそう言い、眉間のしわをより深くさせた。
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