甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
さらに住所変更手続きと自宅の引き払いも確認するよう、しっかり釘を刺された。


「マンションの解約はもう少し後にしようと思うのだけど」


「なぜだ?」


「仕事もあるし、荷物の整理が難しいから」


「構わないが、お前をあのマンションに戻すつもりはないぞ」


「え……?」


断言され、戸惑う。


「これから先お前は俺とずっと一緒だ」


だから早めに解約しろよ、と甘く諭される。

私としてはひとりで冷静に考えたいときや、関係が破綻した際の避難場所として自宅を残しておきたい。

始まりが唐突だった分、突然終わりがやってきそうな不安がどうしても拭えない。

けれど口には出せず、自分の気持ちにもう少し折り合いがついたら解約しようと決めた。


その後、迎えに来てくれた関さんに車で会社に送ってもらった。

車窓からは通勤途中の人々が歩いている姿が目に入る。

目立つ会社の正面入り口は避け、人目につきにくい場所で停めてもらった。

郁さんは不満そうだったが、注目されたくない旨を伝えると渋々納得してくれた。

昨日から郁さんの意外な姿をたくさん目にしている。

今は彼に親近感を感じると伝えたら、どんな反応をするだろうか。


「沙也、帰りは迎えに来る」


車を降りようとドアに手をかけると、声をかけられた。

「でも、仕事は?」


思わず振り返って尋ねると、彼は柔らかく目尻を下げる。


「終わらせるから買い物に行こう。それに保が結婚報告に来いとうるさい」


「買い物?」


「今度両家の両親に挨拶に行くときの服や普段着だ。ほとんど持ってきていないだろう」


「いえ、時間のあるときに取りに戻ろうかと」


昨日は急いでいたため、着回しのできそうなものや仕事着を優先して荷造りした。

元々私は塔子や由衣ちゃんと違い、着るものや身に着けるものにあまりこだわりがない。

お洒落に興味はあるが、流行りに敏感とは言い難い。
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