甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
目まぐるしすぎる変化と、衝撃的な現実のせいで心の中は千々に乱れていたけれど、個人的な理由で仕事をおろそかにはできない。

必死で彼を思考から追い出し、取り掛かるべき書類に向き合って一日を過ごした。

昼休みに塔子と落合い、人目を避けるため近くのベーカリーカフェで昼食をとった。

その後、婚姻届についてのお礼と入籍の報告を伝えた。


「――そう、決断したの……後悔していないのね?」


真剣に尋ねられ、うなずく。


「おめでとう、沙也。幸せになってね」


「……すべてが急すぎて実感もないし、戸惑ってばかりなの。どんどん進んでいく物事にただ流されているだけに思えて……これが正しい選択なのかわからなくなる」


小さな不安を吐き出す。

はたから見れば幸せな悩みと思われるかもしれない。

けれど目まぐるしい変化に心が追いつかずに困惑している。


「物事ってうまくいくときはどんどん進むでしょ。躓かずに前進できるのは今がそのタイミングだと神様が背中を押してくれているのよ」


「うん……」


「くれぐれも考えすぎたり、なにもかも自分のせいにしちゃダメよ」


「……似たような台詞、郁さんにも言われたわ」


「へえ、副社長ったらさすがね。どうやら……心配不要だったみたいね」


「え?」


思わず聞き返すと、親友はフフッと細い指でアイスコーヒーのストローを口にする。

カランと氷が涼し気な音をたてた。
< 104 / 190 >

この作品をシェア

pagetop