甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「ちゃんと毎日身につけろよ?」


軽く身を屈め、耳元で甘く囁く声に体温が上昇する。

思わず視線を下に向ける私に、彼がクスクス声を漏らす。

その後、いくつかの有名宝飾店を見て回り、百貨店上階奥にある個室に案内された。

すでに入籍したのだから婚約指輪は不要だと主張すると、彼は見る間に不機嫌になった。

将来への約束とお互いを想いあう証のような婚約指輪は、私たちの関係に相応しくない。

さすがにそこまでは口にできなかったが、考えを丁寧に伝えると、郁さんは眉間に皺を寄せつつ、了承してくれた。


「……結婚指輪は譲らないからな」


私の左薬指に長い指で触れつつ、話す夫の目は真剣だった。

結婚指輪には全面的に郁さんの意見を取り入れるようにした。

彼の指輪には内側に、私のものには外側に、数個のダイアモンドが埋め込まれ、入籍日が刻印される予定だ。

細いプラチナリングの輝きが眩しかった。

どのくらいの値段になるのか想像がつかず、指にはめるのに緊張を隠せない。

売り場でも多くの従業員は興味津々な様子だったが尋ねられなかった。

詮索されないのはありがたいが、私の来店を知っていたかのような雰囲気がいたたまれない。

足を踏み入れた個室は高級ホテルの一室のようだった。

大きめの布張りのソファにセンターテーブルが置かれ、壁紙は淡いサーモンピンクで統一されていた。
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