甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
今から私が札幌への異動願を出しても、受理されるか不明だ。

しかも本社から電車で二十分ほどのマンションにひとり暮らしをしている私は、契約の更新をしたばかりだった。

なぜ異動願を出す前に相談してくれなかったのか尋ねると、私が断るとは思わなかったからと事も無げに告げられた。

私の異動が受理されないなら退職すればいいとまで口にした。

驚きで二の句が継げずにいると、追い打ちをかけるように彼は言った。


『沙也の仕事なんて誰でもできるものだろ?』


確かに私の仕事は大きな業績をあげるわけでも、誰かに指名されるものでもない。

けれど私なりに一生懸命に頑張って来た。

主任になり後輩指導も任されるようになった矢先だった。

幾度となく話し合ったが、匠眞の考えは変わらず、ともに来ないなら別れると言い放った。

仕事が大好きな塔子は、匠眞に怒り心頭だった。

佐多くんは匠眞に何度か助言してくれたが、聞く耳をもたず私たちは喧嘩別れのように終わってしまった。


その後すぐ、私たちの破局は社内に知れ渡った。

好成績で女性社員からも人気があった匠眞を、私が酷い態度で捨てたという噂がまことしやかに流れた。

どうやら匠眞が周囲に吹聴していたらしいと、塔子が憤怒の表情で教えてくれた。

そのため一時は営業課に行きづらくなっていたが、最近では噂も下火になってきていた。


別れた当初は自分のなにがいけなかったのか、何度も自問自答した。

友だちの延長線上から交際を始めたせいかと今でもふとした折に考えてしまう。
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