甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「副社長、いかがでしょう?」


谷尾さんが問いかけ、郁さんは試着を終えた私に視線を向ける。

この動作はもう幾度となく繰り返した。

その度に、彼は感想を伝えてくれる。

この後風間さんの店へ向かうために、谷尾さんが勧めてくれたのは薄いミントグリーンのくるぶし丈のワンピースだ。

スカートの部分は何層もレースが重なり、動く度に揺れる裾がとても綺麗だ。


「よく似合っている」


ふわりと相好を緩めた彼から贈られる、様々な賛辞に胸の奥が落ち着かない。

谷尾さんは静かに一礼して部屋から退出した。


「男が女性に服を贈る意味がわかるな」


妖艶な眼差しで彼が私を射抜く。

するりと郁さんが私の腰に腕をまわし、耳元に唇を寄せる。


「……今すぐ脱がせたくなる」


その台詞に返答を窮したのは言うまでもない。

試着したワンピースやスーツ、ドレス類は高価なものばかりで、私には支払えそうもなく焦りが募る。

就職してから、積み立てなどでそれなりに貯金はしてきたが、潤沢にあるわけではない。

そんな私の心の葛藤を知ってか知らずか、彼はあっさりと支払いを済ませる。


「待って、こんなにたくさん必要ないです。第一支払えません」


「沙也に支払わせるわけないだろ。もちろん、指輪もな」


呆れ半分不機嫌半分の表情で詰め寄られ、息を呑む。


「でも、いただく理由が……」


「妻に服を贈るのに理由が必要なのか? 俺はただお前に指輪をはめてほしいだけだ」


そっと頬に大きな手で触れた彼が、真剣な眼差しで口にする。

指輪は加工を終えて後日納品される予定だ。
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