甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
この迷いや不安を郁さんに打ち明けようかと迷ったが、多忙な毎日を過ごす夫には言い出せなかった。

これから先の人生を郁さんと歩みたいし、様々な重圧と責任を背負う彼を支えたいと心から願う。

でも同時に佐月製菓で作り上げた、自分だけの居場所を手離す覚悟ができない。

郁さんに自分のすべてを預けるのを心のどこかで怖がってしまう。

彼に恋をする前は、結婚生活の終わりを常に覚悟していた。

だからこそ仕事は絶対に辞めないつもりだった。

けれど今はその選択が正しいのか、自信がない。


『ふたりだけの時間が続くのは嬉しいが、家族が増えると嬉しい』


さらに時折彼がつぶやく言葉に、ほんの少しひっかかりを覚える自分も嫌になる。

郁さんが後継者を必要としているのも、会社のために望んでいるのもわかっていたはずなのに。

なぜこれまでに気にならなかった事象が、今になって気になるのだろう。

押し寄せる現実の波に身動きできずにいる自分を感じ、細い息を吐いた。
 
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