甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
その後、慌ただしく時間は過ぎ、現在、時計は午後七時を指している。

処理すべき仕事は山ほどあるが、ひと段落ついたところでパソコンの電源を落とした。

金曜日の今日、友人と約束がある由衣ちゃんはすでに退社している。

まだ残っている同僚に声をかけ、フロアを出た。

帰り支度をし会社を出て少し歩くと、前方によく知った後ろ姿が見えた。

まさか、と歩みが止まった。

僅かに見えた横顔に確信する。

数メートル先の交差点で足を止めているのは別れた恋人だった。


脳裏に今朝の同期の忠告がよぎる。

今日は営業課に出向く用事もなかったのですっかり失念していた。

今さら話もないし、顔を合わせるのも気まずいので、信号をひとつやり過ごそうと決めた途端、彼が振り返った。

目が合うと、匠眞は驚いた表情を一瞬浮かべ、近づいてくる。

逃げたいと心から思ったが、人目もあるため理性を総動員させてなんとか踏みとどまる。


「久しぶり、沙也」


「……お疲れ様、こっちに来てたのね」


「どうせあいつらに聞いて知ってただろ?」


どこか棘のある言い方に心が落ち着かない。


「今から帰るのか?」


「えっ……ああ、そうだけど……ちょっと寄りたい場所があるの」


咄嗟に嘘をつく。

彼といる時間を少しでも早く切り上げたい。


「駅には向かうんだろ?」


「あ、うん。駅の反対側に行くつもりだから」


「じゃあ駅まで一緒に行こう」


断る理由が思いつかず、うなずいて歩きだす。
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