甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「取れました」


「すみません。ありがとうございます」


すぐさま数歩後退して、頭を下げる。


「いえ、私の不注意ですし顔をあげてください。痛い思いをさせて申し訳ない」


「とんでもないです。あの、ボタンは大丈夫でしょうか?」


視線を上に向けて、男性の胸元を見る。

この人が身に着けているスーツやワイシャツは近くで見た限りとても上質そうだった。

きっと身なりに気を遣っているのだろう。

袖口から見えた時計も某有名ブランドのものだし、どれだけ高額なのかと身構えてしまう。


「ええ、平気ですよ」


「でも……」


「――オーナー、入り口でなにをされてるんです?」


このまま立ち去って失礼にならないか思案していると、ふいに明るい男性の声が割り込んできた。


オーナー?


「そろそろ(せき)さんが迎えに来られる時間ですよ」


「風間、俺の予定をよく知ってるな」


彼が砕けた口調で返答する。


「オーナーの居場所をよく尋ねられるので。一体なにをして……あれ、倉戸さん?」


白いシャツにひざ下までの長さのあるサロンエプロンを身に着けた男性が、私の名を呼んだ。


「こんばんは。すみません、私がご迷惑をおかけしたんです」


「俺が扉を勢いよく開けたせいで、彼女を転ばせるところだったんだ」


「えっ、大丈夫ですか? どうぞ中に入ってください。いいですよね、オーナー?」


「そうだな。いつまでもここにいたら目立つし邪魔になる」


風間さんに同意する男性に、慌てて首を横に振る。
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