甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「いいえ、もう失礼しますので」


「でも元々来店してくださったんですよね? なんだかお顔色が優れないようですし、少し休んでいってください」


そう言って、彼がそっと私の頬に指で触れた。

その瞬間、ドクンと鼓動がひとつ大きな音をたてた。


「申し訳ないのですが私はこれから少し外出しますので、戻るまでなにか召し上がって休んでいてください。お詫びにご馳走します」


「お詫びなんて……必要ないです。お約束があるのにお引き留めしてすみません」


慌てて口を開くと、彼が少し驚いたように目を見開く。

それからふわりと相好を崩した。


「それでしたら、あなたともう少しお話したいので私が戻るまで待っていてください」


「いえ、私、本当に今日は」


「ああ、申し遅れました。私は響谷と申します」


私の返答を意に介した様子もなく、彼が名刺を差し出す。


「えっ、ちょっと、オーナー?」


風間さんがなぜか慌てた様子で響谷さんに声をかける。

風間さんの態度を訝しみながらも、私もバッグから名刺入れを取り出し、名乗った。


「倉戸沙也と申します。助けていただき、ありがとうございました」


「助けたなんてとんでもない。ああ、この先にある、佐月製菓さんに勤務されてるんですね」


彼が名刺に視線を落としながら話す。


「はい」


返答しつつ、響谷さんからいただいた名刺を見た私は目を見開いた。
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