甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
【響谷ホールディングス株式会社 副社長 響谷郁】


響谷ホールディングスって……今朝塔子たちと話していたあの、響谷?


思わず記載内容を二度見する。

国内で三本の指に入る規模の響谷ホールディングスは、全国展開をしている百貨店、スーパーマーケットといった子会社を傘下に多く抱えている。

その業績は右肩上がりで、海外にも積極的に進出している。

最近では海外の五つ星ホテルグループを買収したと報道があったばかりだ。

再び同期と後輩との会話を思い出す。

滅多に会えないと評判の副社長に、まさかこんなかたちで会ってしまうなんて。


「あ、あの……それでは……失礼します」


社会人とは思えないたどたどしい挨拶をして、踵を返そうとした瞬間、響谷さんが私の右手首を軽く引っ張った。


「待っていていただく約束でしょう?」


「え、でも」


約束って、なんの話?


至近距離で囁かれて、肩がピクリと跳ねた。


「風間、あとはよろしく。俺が戻るまで失礼のないように」


「わかりました。どうぞ倉戸さん」


手を離した響谷さんがトンと私の背中を押し、店内へ促す。

風間さんはなぜか面白そうな表情を浮かべて、私に席を勧めてくれた。

何度も訪れた店内なのに、なぜか今日は少し緊張してしまう。

テーブル席も大きめのカウンター席も、金曜日だというのに、どういうわけかすべて空席だった。

店内には数人の見慣れた店員の姿があるが、客は私以外にいなかった。
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