甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
店員の質問に回答する風間さんの声が切れ切れに聞こえていた。

心地よい喧噪の中、再び匠眞との過去の会話が脳裏を掠める。

彼の言う通り、仕事をあきらめてついていくのが正解だったのだろうか。

それでも匠眞の考えや態度をどうしても受け入れ難かった。

お互いの意見を尊重しあえる家庭を築きたいと思うのは間違いなのか。

いつかは大切に想う人と結婚したいと漠然と願っていた。

最近では恥ずかしさもありなかなか口に出せないが、ウエディングドレスへの憧れもある。


「……間違っていたのかな……」


ぽつりと気弱な言葉が漏れる。


「――どうかされましたか?」


いつの間にか私のすぐ近くにいた風間さんが、反応する。


「いえ、あの……なんでもないです」


「やはりお顔色が優れないようですが、なにかありましたか?」


穏やかな口調に胸が軋み、思わず弱音を吐きそうになる。

来店してからの私は情けない姿ばかりをさらしている。

これ以上甘えてはいけないし、客としての立場をわきまえるべきだ。

張り付けたような笑みを浮かべ首を横に振る私に、風間さんは困ったように眉尻を下げた。


「なにかつらい出来事でも? ほかのスタッフは片付けをしていますし、聞こえません。よかったら気持ちを吐き出してください」


「大丈夫です。ご心配いただきありがとうございます」


口を割らない私に、風間さんが片眉を上げる。


「オーナーも倉戸さんを心配されていました。お話を伺うまでは店にいていただくよう言われているんですよ」


なので話して下さらないと退社できません、と無邪気な笑顔で告げられる。
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