甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「なるほどね。ごめん、倉戸さん……ああ、言いにくいから沙也ちゃんって呼んでいい?」


「は、はい?」


落ち着いた、大人の店長という今までのイメージをガラリと覆した風間さんが私に許可を求める。

心なしか数分前よりも雰囲気が柔らかくなっているように感じた。


「郁は自分の立場をどんなときもよくわかっている。迂闊なその場しのぎの発言は絶対にしないよ」


まるで彼がなにを話したのかわかっているような口ぶりに、頬がじわじわ熱をもつ。

そんな私をからかうでもなく、風間さんは穏やかな眼差しを向ける。


「なんとなくだけど、今なら郁の気持ちがわかるよ」


「――保、確認する動画は?」


開け放されていた個室の入り口から、突如低い声が響く。

反射的に振り返ると、そこに立つ男性と目が合い、息を呑んだ。


「悪い、来客中か? ……沙也?」


「響谷副社長?」


なんでここにいるの?


「郁、予定より来店時間が早くないか? しかも今は飯野(いいの)が来てるぞ」


驚きに固まる私をよそに、風間さんが冷静な口調で話しかける。

その口ぶりから響谷副社長の来店を知っていたようだ。


「関係ない。それより沙也、どうして保といる? それにその赤い顔……」


どんどん険しくなっていく表情と低くなる声にハッとしたとき、澄んだ女性の声が聞こえた。
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