甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「今、室内で営業部長が応対してるわ。専務もつかまらなかったらしいの」


まったくうちの上層部ときたら、と親友が渋面を浮かべる。

わが社の上層部がこれほど混乱する様子に、改めて響谷ホールディングス、ひいては彼自身の影響力の大きさを改めて痛感する。

結婚を決めた自分の判断が正しかったのか、決意が揺らぐ。

本社ビル内の空調は完璧にコントロールされているはずなのに、冷たい汗が背中を伝う。


「沙也、行きましょ」


塔子の呼びかけにうなずき、震えそうになる足を動かす。


「お待たせいたしました。倉戸を連れてまいりました」


「篠崎さん、ありがとう。倉戸さん、こちらへ」


焦げ茶色のひとりがけソファに腰を下ろした営業部長に声をかけられ、歩みを進める。

頼みの綱の塔子は心配そうな表情を浮かべながらも部屋を出ていく。

営業部長に向かい合うように置かれた、ふたりがけソファに腰かけた副社長は私を目にするなり、立ち上がった。

彼の後方には関さんの姿がある。


「こんにちは、倉戸さん。お忙しいところお呼びだてしてすみません。昨日は失礼しました。体調はいかがですか?」


綺麗な二重の目を柔らかく細めた彼が労わるように尋ねる。

どうしてここに、と思わず問い返しかけたが周囲の目を思い出し、グッと堪える。

響谷副社長の目はどこか面白そうに輝いている。
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