甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「いつもお世話になっております。お待たせして申し訳ございません。昨日はご迷惑とご心配をおかけし重ね重ね申し訳ありませんでした」


落ち着いた声をなんとか絞り出した自分を褒めたい。

不本意ながら話を合わせ頭を下げると、座るよう促される。

営業部長の隣のひとりがけソファにそっと腰をおろした。


「お元気そうで安心しました。昨夜は送れず申し訳ありません」


整いすぎた面差しがふわりと優しく綻ぶ。

その瞬間、鼓動がひとつ大きな音をたてた。


「響谷副社長は倉戸と面識がおありなんですよね?」


ここぞとばかりに口を挟んだ営業部長に彼が返答する。


「ええ、とても大切な女性です。今朝は意図せずあのような報道が出てしまい、慌ててこちらに伺った次第です」


「大切、とはどういった……」


「将来を誓い合った女性です」


照れもせず答える副社長に、私以外の室内の人々が息を呑む。

質問をした営業部長はぽかんと呆けた表情を浮かべている。


なんで、いきなり発表するの?


そもそも公表するなら最初の他人行儀なやりとりはただの誤魔化しか茶番でしかない。

一方的すぎる発表に困惑と腹立たしさを感じる。


「しかし、まだなにも具体的に決まっていませんのでこの件は内密にしていただけると助かります。私の過去の不甲斐なさもあり、大事な彼女を矢面に立たせたくないのです。今日はそのご報告とお願いに参りました」


「それは、もちろんです。倉戸は当社の大切な社員ですので」


我に返った営業部長の嬉々とした様子に、私が反論する機会は完全に失われていた。
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