甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「沙也、着いたぞ」


促され、車から降りると眼前には二十階建ての真っ白なタワーマンションが建っていた。


「このマンションって……」


「こちらの最上階すべてが副社長の現在のご自宅になります」


運転席から降りた関さんの淡々とした説明に目を見開く。

思わずエントランスに刻んであるマンション名を見る。

明るい外灯に照らされているせいもあり、マンション周辺は午後八時半をすぎていても十分に見通しが良い。

郁さんは関さんに直帰するようにと伝え、関さんは一礼をして去っていった。


「ここって確か最近分譲されたばかりじゃ……」


昨年くらいから何度も電車の中づり広告で見かけた記憶がある。

都心にほど近い最高の立地、しかも最寄駅に直結しているうえ、すぐ近くには大型スーパーマーケット等が入った商業施設がある。


「ああ、うちが手掛けたマンションだからな。気に入らないなら別のものを用意する」


とんでもない発言に血の気が引く。

ここは彼が購入したものらしく、ほかにも所有している物件がいくつかあるそうだ。


「あの、豪華すぎて……一緒に暮らすなら家賃とか、私……」


「妻から家賃をもらうつもりはない。相変わらず律儀だな」


そう言って、今だ絡めたままになっている私の指先に小さくキスを落とす。

小さな刺激に肩が跳ねる。


「これからはここに帰ってこい」


私の迷いを振り切るかのように、郁さんが絡めた私の手を引く。
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