甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
鍵をかざしもせずにオートロックのガラス扉が解除される。

高い天井に広いエントランス、ピカピカに磨かれた長い廊下の先にあるエレベーターホールに行きつく。

オートロックで管理されたエレベーターに乗り込み、最上階に向かう。

エレベーターの中ではお互いになぜか無言だった。

これまでの雰囲気とは違う彼に戸惑う。

ポーンと明るい音が響き、エレベーターの扉が開く。

カーペットが敷き詰められた空間に一つだけあるドアを開け、彼が私の入室を促す。


「……お邪魔します」


真っ白な玄関に恐る恐る足を踏み入れると、背後で彼が玄関扉を閉めた。

誘導されるまま、靴を脱ぎ、これまた長いフローリングの廊下を抜けた先には二十畳ほどの広いリビングがあった。

目の前に広がる夜景を息を呑んで見つめていると背後からぎゅっと抱きしめられた。


「か、郁さん?」


「今日からずっとここがお前の家だ……お邪魔します、は不要だ」


項に触れる柔らかな感触に肩が跳ねる。


「――大事にする」


真剣な声音が心に染み込み、まるで熱い思いを告白されたように感じてしまう。

すべてはお互いの利益を優先したもので、好意はおろか甘さなんて存在しないのに、勘違いしそうになる。


「今日からずっと一緒にいてくれ」


まるで恋焦がれるような台詞に胸の奥が熱くなる。
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