甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……可愛いな」


甘い蜂蜜のような声が耳に響き、体が熱くなる。


「今すぐ抱きつぶしたくなる」


甘い責め苦に胸が締めつけられる。

どうしてこんなに心が乱れて痛いのだろう。


「いつまでも抱きしめていたいが、荷ほどきがあるだろう。俺はなにか食べるものを手配してくる」


頬を緩めた彼に告げられ、部屋に備えられた壁掛け時計を見やるともう九時を過ぎている。

夕食にも遅い時間帯だ。


「ごめんなさい、私の荷物の準備に時間がかかったので……」


「謝らなくていい。今日ここに連れてきたのは俺の意思だ。そもそも入籍やほかのスケジュールも俺が決めたものだ」


「でも」


「なんでもかんでも自分のせいにしなくていい」


ほんの少し眉間に皺を寄せた表情は、一見不機嫌にも見えるのに、私の髪を梳く指はとても優しい。

する、と私の背中にまわしていた腕をほどいた郁さんは、髪に小さなキスをして部屋を出て行った。

その瞬間、緊張なのか恥ずかしさなのか、様々な気持ちが一度に襲い掛かりその場にうずくまってしまった。


「熱い……」


そっと片手で触れた頬は、驚くほどの熱をもっていた。

現実感がないまま、機械的に手を動かし、持ってきた荷物を棚やクローゼットに収納する。

真新しい家具類は私のために用意してくれたのだろうか。

ネットニュースが配信されたのは昨日で入籍も先ほどだというのに、これだけの準備がどうしてできているのだろう。
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