甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
郁さんはいつから私と一緒に暮らすつもりだったのか。

それとも、もしかしてここは彼の“妻になる女性”が使う部屋としてあらかじめ整えられていたのか。

ふいに湧き上がる疑問に、なぜか胸がぎゅっと痛いくらいに締めつけられる。

そんな考えを抱くなんておかしい。

郁さんがこれまで様々な女性と関係や噂があったのは既知の事実で、私がどうこう言える立場にはなく、言うつもりもない。

わかっているのに、なんでこんなに心が乱れるのだろう。

お伽話の王子様のような外見と強引な性格、話も合わなさそうなこの人と将来をともに歩む決意をし、同居するなんて、数日前の私には想像もできなかった。

人生はなにが起こるかわからないとはよく言ったものだ。

私たちの馴れ初めが郁さんは気にならないの?

恋愛を半ば放棄した私とは違い、もし今後本気で好きな人ができたらどうするつもりなのだろう。

私との間に後継者がほしいと、本気で願っているのだろうか。

いくら考えても答えは出ず、フローリングの床に座り込んだまま小さなため息を漏らす。


「沙也」


コンッと開け放たれたドアがノックされ、振り向けば、黒い半そでシャツにグレーのスウェットというラフな姿の彼が立っていた。

部屋着をこんなにお洒落に着こなせる秘訣をぜひ教えてほしい。


「片づいた?」


初めて見る姿にぼうっとなりつつうなずくと、彼が室内に入ってくる。

私の真正面で屈み、顔を覗き込む。
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