甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「倉戸、おはよう。悪いがこの手続き、頼む」


慌ただしく同期の佐多洵平(さたじゅんぺい)がフロアに入って来た。


「おはよう、佐多くん。今朝も忙しそうね」


「ああ、後十分くらいで出るんだ。もし不備があったら取りに来るから内線で連絡をくれ」


「そのときは持っていくわ」


「いいよ、お前、こっちに来にくいだろ?」


優しい同期の配慮が胸を打つ。


「……ありがとう。でも仕事だし、平気よ」


「いいから、気にするな。もし急ぐようなら篠崎(しのざき)に伝えておいてくれ」


「私を伝言係にしないでくれる? 佐多、課長が捜してたわよ」


突然背後から響いた声に振り返ると、同期で親友の篠崎塔子(とうこ)が立っていた。

私より十センチ以上背が高く、姿勢もいい親友は先日購入したばかりのパンツスーツを身につけている。

卵型の綺麗な輪郭にベリーショートの髪がよく似合っている。


「悪い、篠崎。じゃあ後は頼む」


用件を告げて、営業課トップの成績を誇る同期はフロアを出ていく。


「まったくもう、席にいないと思ったらやっぱりこっちに来てたのね」


「佐多さん、いつにもまして忙しそうですね」


由衣ちゃんが塔子に話しかける。


「今、新しい取引先と契約できるかどうかの正念場なのよ。佐多の売り込みがよくて、先方がうちの商品にずいぶん興味をもってくださってね」


佐多くんは入社間もない頃からめきめき頭角を現していた。

同じ営業課の塔子も一目置いているくらいだ。
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