甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
複雑な気持ちを抱えたまま入浴を終えた。

洗面所を出て声をかけると、郁さんが浴室に向かった。

食事の際に冷蔵庫の中身は好きにしてよいと言われていたので、ダイニングルームに向かう。

冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取りだし、口に含む。

冷たさが火照った体には心地よかった。

ふと整えられた室内を見回す。

この部屋は定期的にハウスクリーニングの業者が入っているそうだ。

できれば自分で掃除したいが、時間の確保が難しいと食事の最中に彼がこぼしていた。

せめて光熱費や諸々の費用を負担すると伝えると、ものすごく冷たい目で突っぱねられた。

共働き夫婦がお互いに生活費を負担するのは一般的だと説明しても聞く耳をもたず、ならばせめて家事を、と申し出ると彼は渋面を浮かべた。


『俺は妻と暮らしたいだけで家政婦がほしいわけじゃない』


『自宅の家事を担うだけ、家政婦さんじゃないわ。私のほうが郁さんに比べたら自由な時間が多いの。料理や洗濯、掃除は完璧にはこなせない可能性が高いし、気に入らないところが多いかもしれないけれど』


『沙也の行動で気に入らないものなんてあるわけない』


真顔で言われて息を呑んだ。


『家の中の仕事をしてくれるのは有難いが、くれぐれも無理はしないように』


私に言い聞かせるように諭し、やっと了承を得た。

ちなみに買い物は近所にスーパーマーケットがあるが、重い荷物を運ぶのは大変だからネットスーパーを利用するよう言われた。

意外にも過保護な様子に苦笑しそうになったのは内緒だ。
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