愛しのフェイクディスタンス
***
優奈が雅人の元で居候をしている身だと知る奥村は、マンションまで送ると主張してくれたが……気を使う気持ち半分。
そして誰かと会話しながら帰る気になれなかった気持ち半分。
罪悪感を抱きつつ申し出を断り、トボトボと帰路についていた。
いつもよりも歩くスピードが遅い。
電車を降りればたった数分の距離になのに……やっと到着だ、と老婆のように疲れ果ててそびえ立つマンションを見上げていると。
静寂の中カツカツと派手な足音が響いていることに気がつく。
夜空から、その足音へ。
優奈はゆっくりと視点を移した。
少し風がある。パリパリと音を立てて落ち葉がタイルの上を流れるように飛んでいく。
その落ち葉を踏みつける、ハイヒール。
エントランスの自動ドアの方からその足音は響いていたようだ。
目に入ったのは、ゆるく巻かれた腰のあたりまである長い黒髪だ。ボリュームがあるのに艶がありまとまっていて、街灯の光を反射して輝いて見えるほど。
その次には、大きなサングラス。
夜だというのに視界は悪くはならないのだろうか。くだらないことを考えつつも、少しずつこちらに近づいてくる女性を眺めた。
小さな顔がサングラスで隠れてしまっているよに見える。それはすなわち超小顔。
(マンションの住人かな?)
芸能人など有名な人物ももちろん住んでいるであろう、このマンション。顔を一般人に見られては困る人なのかもしれないが。
もちろんそんな有名人、優奈には雅人を除き縁がない。
しかし素通りもどうかと思い、軽く会釈をして通り過ぎようと考えていたのだが……しかし。
その女性は優奈の目の前で歩みを止めてしまった。
「こんばんは。あなたが妹ちゃん?」
「はい?」
優奈は目を丸くしながら素っ頓狂な声を上げてしまう。