愛しのフェイクディスタンス




 夜の闇に負けない漆黒のコート。
 ボタンを外したままのコートの中は、ワインレッドのワンピース。
 深く開いている胸元はかなり存在感のある膨らみを強調しているし、優奈が着用しようものなら道端のゴミを清掃する勢いで引きずるだろう丈のワンピースを足首を見せる余裕っぷりで着こなしている。

 暫く見惚れていた優奈だが、ハッとして口元を押さえた。

(待って……この人今、なんて言った?)

 "妹ちゃん"

 誰の? なんて、思い当たる人物など限られているではないか。

 優奈がなかなか言葉を発しないため、痺れを切らしたように目の前の女性はサングラスを外す。
 まるでその様子はスローモーションのように、ゆっくりと優奈の目に映り続けた。

(……え)

「優奈ちゃん、よね? こんばんは、突然ごめんなさい。私は……」
「な、なな名草楓!? ……さん!!」

 優奈と女性の声が重なった。

(嘘でしょ!? なんで!?)

「あら、まだ覚えてくれている子がいるのね。嬉しいわ、それも雅人の妹ちゃんに」

 硬直する優奈の元へ、優雅な歩みで彼女はさらに近づいてくる。
 
 憧れるほどにくっきりとした二重瞼に、大きな瞳。濃いアイメイクも嫌味なく映えて。
 日本人離れした高い鼻筋。厚くぽってりとした色気のある唇。
 きつい香水の香りにも負けない存在感と、圧倒的なカリスマオーラ。
 見惚れてしまう自分を止めることができないでいた。

「少し、時間いただけるかしら?」

 優奈はこの女性を、知っている。


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