愛しのフェイクディスタンス
エレベーターを降り、駐車場へ向かうまでにいくつもの視線を浴びながら。
たどり着いた車の前。
恐らく、すぐに逃げ出そうとするだろう優奈を抱えたまま運転席に乗り込んだあと、隣に投げ込むようにして助手席に座らせシートベルトをしめた。
呆気に取られる優奈を横目。こちらもシートベルトに触れようと手を伸ばすが。
震えてうまく掴めない。
(……あんの、クソジジイが!)
怒りで誤魔化していようと、逃げ続けていたものに挑もうというのだから。恐怖だって負けてはいない。そんな醜態でさえ、父親を憎らしく思えば飲み込めてしまう。
エンジンをかけ、薄暗い駐車場をライトが照らす。行く道を示して照らすそれが、避け続けた人たちの元へ向かっている。
見たくなかったんだ。
本当はずっと、変化など見せつけられるわけにはいかないと逃げる自分を、知っていたけれど。