愛しのフェイクディスタンス
愛し愛され食べごろ果実

 帰りの車の中は、終始無言。
 沈黙。
 でもどんよりとした気持ちにならなかったのは、時折り触れ、躊躇いがちに握りしめる暖かい手があったからかもしれない。


 

「優奈、腹は減ってないのか?」

 雅人は家に到着すると、先に優奈を部屋に入れた後で靴を脱ぎながらそんなことを言った。

「え?」
「いや、仕事終わりのお前をそのまま連れてきたから」
「大丈夫だよ? てか、この状況でお腹空いたなぁどころじゃなかった……し」

 苦しくて、言葉に詰まる。
 背後から力強く回された腕と、その事実に。

「まーくん、えっと……疲れた、よね?」

 こうして触れてくれることなど、小さな頃しか記憶にない。だからだろうか。自分から上に跨って迫るまでを実行済みだというのに動揺から声が裏返ってしまうではないか。

「優奈。俺に、どうなって欲しいって?」

 低く掠れた声が、暖かい吐息とともに優奈の耳に届く。
 きっと、どさくさに紛れて放った雅人の両親宅での発言のことだろう。

(……よく、まああんな恥ずかしいことを真顔で)

 あの雰囲気の中でだからこそ堂々と叫べた言葉だったけれど。その言葉に対して何か返事があったわけでもないし、さらには"好きな女"発言も『私のこと好きなんだ?』なんて調子に乗りすぎた発言をしたが、それこそ真意不明のままである。

「私のものになって、まーくん」

 振り絞った言葉に返ってくる声はない。けれど代わりに優奈の身体を包む雅人の腕に力がこもった。
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