愛しのフェイクディスタンス


***



「ねえ、まーくん」

 真夜中に、シャワーを浴びて寝室に戻った雅人をまじまじと優奈は見つめる。

(……うっわ、ヤバい)

 呼びかけたくせに布団に潜り込み顔を隠した優奈に「どうしたんだ?」と、穏やかさの戻った声色で近づく気配。

 先程まで組み敷かれていたはずの、その身体はどこか夢の中のようで朧げだったのに対し。
今は間違いなく現実だった。

(筋肉最高だし胸板逞しいし、待って私ほんとにまーくんとしたの!? 凄くない!? 明日突然死んだりしない!?)

「優奈?」

 心配そうな声に、優奈はそろりと顔を見せてみる。

「まーくんの身体……超絶イケすぎてて直視できない……」

 真顔で言った優奈に、ぶは!っと豪快に吹き出した雅人はニヤリと意地の悪い笑顔になって。

「ひどいな、身体だけか?」

 軽くキスを落とし、ベッド脇に座ると同時に優奈を抱き寄せ膝の上に座らせてしまう。

「……声も顔も好きだし、イジイジしてたとこも、あと女癖悪そうなとこも……含めて好き」
「女?」
「そう。色々、噂とか聞いてたけど。ネットニュースとかでさ。でも」

 言い淀むと、雅人は背後から縋るように抱きつき首筋に顔を埋める。

「名草?」

 優奈の言いたいことは伝わっていたらしい。

「うん。会いたいって言えばいつでも来てくれるって言ってた、名草さん。やっぱ特別な人なの?」

 聞き返すと、観念したかのように大きく息を吐き出した後、雅人は後ろに倒れ込み腕で、その目を隠す。

「……何度も言うが、違う。お前以外に特別な人間なんていない」
「じゃあ、何?」

 隠す腕をのけると、困り果てたと言わんばかりの頼りない瞳が揺れている。

「優奈が、高校を卒業する頃……あれ、結構キツかった」

 ガーン。
 そんな擬音が形になって見えそうな衝撃だ。
 それが指す出来事などいくつもなく。

「……話、逸らされたうえにキツイって?」
「違う、優奈。聞いて」

「何よ」と口を尖らせていると、雅人は愛おしそうにその唇を親指で撫で、手のひらは頬を包む。

「あの後、だいぶ飲んだ。初めて記憶飛ばすくらいにな。そのまま名草に会って、抱いたんだよ。優奈のつもりで」
「は?」

 目を丸くしたなら、バツが悪そうに雅人はふいっと横を向く。
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