愛しのフェイクディスタンス


「夢なら別にいいだろって、散々……余計なことも言って。だから、お前に何を言って接近したかわからないけど、名草は俺の気持ちもお前の存在も何もかも知ってる」
「余計なこと言って……?」

 優奈の問いかけには、曖昧な視線だけが返ってきた。答えてくれる気はないらしい。

「優奈のこと、すぐ調べてきたよ。あの女は。そのまま"兄"でいたいなら協力すると。見返りはいつでも会える関係でいろってわけだ。まあ脅されてやってたんだよ。俺も都合が良かったし」

 なんの都合が? とは、話の流れ的に理解できない純粋さは悲しいかな。持ち合わせていない。性的欲求の捌け口は必要だったということだ。

「名草さん、綺麗もんね」
「……大多数はそう捉える容姿だな」

 他人事のように答える雅人に少しだけイラッと湧き上がる怒り。

「でも、じゃあ、これからは会わないんだよね? 必要ないもんねぇ?」

 チクチクとした雰囲気に気がついたのか、慌てたように雅人は起き上がってオロオロと身振り手振り。

「も、もちろん会わない」
「でもあの人、そんなにすんなり引き下がるのかなぁ? 都合よくさ。無理じゃない? まーくん女を舐めすぎだよね!」

 今度は優奈がふんっと横を向く。

「優奈を盾にしておいて俺が何も用意していないなんて、あると思うか?」

 拗ねる優奈の髪を柔く梳かして、雅人は言う。
 チラリと見れば不敵に笑う、それは、兄でもなければ、優奈に好きだと告げたどこか頼りない男でもなく。
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