愛しのフェイクディスタンス
「俺にとっては優奈のかわりでも、あっちは違うっていうなら。いつお前に目が向くかわからないんだから」
雑誌やネットで横目にチラリ、見ないふりしてた、野心いっぱいの高遠雅人の自信溢れる表情だ。
「名草の会社が急激に拡大したのは、リトルの社長がバックにいるからだよ」
「リトル?」
とは、優奈の知るファストファッション最大手のことだろうか?
「不倫関係にあるな。パトロンとも言うのか?」
「パトロン……」
縁のない言葉に、優奈はただ繰り返すのみ。
「俺はあの女が誰と関係を持とうが心底興味はないけど、ブランドのターゲット層はどうなんだろうな?」
「ターゲット層……」
「ああ。あいつのターゲット層。同年代の子育て世代の女性たちは、昨今の傾向に関わらず不倫には大きく拒否反応を示すだろ? 追従して世間からの反応も大きくなる」
雅人の細められた瞳の奥。
「俺はとても寛容だろ? 今後一切俺と優奈に関わらなければそれでいいと、そう終わらせるつもりでいるよ」
そこに光るものは邪悪に映る。
「そ、そんなものなのかな」
「ああ。あの女は経営者としては素晴らしい野心を持ってると思うよ。だからこそそれを投げ捨ててまで俺に関わることはない」
何年もの間、きっと雅人の一番近くにいたのだろう、名草。
「まあ、今後も続ける関係なら、このネット社会だ。いつかはバレるかもしれないけど。
そんなことは俺の知ったことじゃない」
切り捨てられるのも、また、雅人の持つ一面なのである。
「……軽蔑するか?」
そこまで言い終えて、雅人は初めて不安そうに優奈の様子を伺った。
「ううん」
しかし優奈は横に首を振った。
本当に優しい人間ならば、心を痛め、雅人に軽蔑の眼差しをぶつけるだろうか。
何を切り捨てても、ここにいてくれるならばそれでいい。そう思う優奈もまた、非情なのかもしれない。
「でも、これからは、私以外の人に目を向けたら許してあげないから」