愛しのフェイクディスタンス


 そう言うと、慌てて機嫌を取る言葉をあたふたと探し始める。こんな高遠雅人を知る者が優奈だけであるならば、それでいいと今は思うから。

「優奈」

 複雑な心を納得させていると、優奈を呼ぶやけに低い声。
 何事だ? と、身構える。

「……俺より長く生きて」
「へ? 何突然?」

 何を言い出したのかと笑う優奈を前に、しかし雅人は真面目な表情を崩さなかった。

「俺が死ぬ時に、優奈には元気に生きててもらわなきゃいけない」
「え? え? 待って、何?」
「その時に採点してもらいたいから」
「いや、だから何を?」

 訳がわからず慌てる優奈を、愛おしそうに目で追った後。雅人はわふっと力を抜いて笑顔を作った。

「優奈を不幸には、しなかったかどうかを」

 沈黙はほんの数秒だったかもしれない。
 けれど、優奈にはもっと長く感じた。
 正確には、その言葉を正しく理解し噛み砕くまでが果てしなく長く感じたのだ。
 じわりと、目の奥が熱くなった。ただでさえ汗ばんで綺麗に整えてない顔が、更に崩れてしまうではないか。

「……そ、れって、今言う?」
「ああ、今言った。でもまた、やり直すよ。ちゃんとな」

 溢れた涙の意味は、雅人には伝わっているだろうか。
 それがプロポーズの言葉だと、理解してしまったことを。

「……して、あげる」

 泣き出す優奈とは対照的に、弾けるような雅人の笑顔は、まるで見たこともないほど。
 少年のように幼くて。

「好きだよ、優奈。やっと言える、お前のおかげだ」

 未来を照らす笑顔だった。

 
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