愛しのフェイクディスタンス
愛しのフェイクディスタンス






***

 

「優奈、どこに行ってたんだ」

 苛立ったように、優奈の手を掴んだ雅人。
 
「マキさんとご飯に行くって言ってたじゃん」
「こんな時間になるなら電話にはでてくれ」

 こんな時間? と、優奈はスマホを取り出して時刻を確認する。二十一時半。

「……まーくん、過保護」
「なんとでも言え」

 妹を卒業し、恋人同士となってから。雅人は思いのほか優奈のありとあらゆる行動と人間関係を把握したがった。
 心地いい反面、なぜだか意地悪もしてみたくなる。これはきっと幸せな証拠。

「マキの他には?」
「ん?」
「誰がいた?」

 まるで尋問のようだ。
 玄関先で、廊下を歩かせてももらえない。

「奥村さんもいたよ」

 ピキっと雅人の顔が引き攣ったのがわかる。
 口元に作る笑みも、笑みになりきっていなくて歪なのだ。

「……まだ、女作ってないだろあいつは」
「そうだね」

(まあ、彼女できそうだって、今日はマキさんたちと根掘り葉掘り聞き出すためのご飯だったんだけど)

 それは伏せる。
 だって長年の片想いが終わって、まだ一年。もう少し、いい気分を味わっていたい。

「次からは先にメンバー全部伝えて行くんだ」
「え、やだよ。まーくんちょっとうざいよ」

「うざい!?」と、叫んだ雅人はよろよろと壁にもたれ掛かって撃沈されている。その隙に優奈はリビングに向かって小走りでその場を逃げた。

「優奈! この際うざかろうと何だろうと構わない。俺はどうしてもお前がどこで誰と何をしてるか全て知っておきたい!」

 多少持ち直した雅人が優奈のうしろから、実の父親からも聞かされたことのない過保護な言葉を発しながら近付いてくるのがわかる。
 もうこれくらいにしよう。
 振り返った優奈は、満面の笑みで雅人の動きを止めた。
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