愛しのフェイクディスタンス
ペチ!と、間抜けな音を響かせて優奈は頬を自らの両手で叩いた。
ひとしきり吐き出して落ち着いたあと、顔や手を洗い、既に部屋の中で優奈を待つ雅人のもとへ向かう決意をする為だ。
(お風呂……入りたいけど、さすがに無理だし)
玄関を入ってすぐトイレと風呂があり、その先のドアを開ければ小さなキッチン、奥にリビング兼寝室がある。
そこで雅人は座ることなく、ベッド横の壁にもたれかかり腕を組んで佇んでいた。小さなアパートの部屋に、百八十は優に超える高身長が存在していると、さらに小さく見えてしまう不思議。
おまけに八頭身のモデルスタイル。彼が立つ場所だけが、もはや優奈の部屋ではないかようで。
「優奈、落ち着いたか?」
「……はい、あの、また……すみませんでした」
「謝る必要なんてないだろ。それよりもお前、何も食べれてないのか?」
優奈の目の前まで歩み寄った雅人が、ずいっと顔を近づけて至近距離で強く見つめる。
正直、ゲロゲロと吐き終わった後なのであまり見られたくないのだけれど。
「胃液しか吐き出せてないじゃないか」
「……ちょっと、忙しくて食べる暇なくて。あ、でも今は平気です、ほんと元気になりました」
これ以上見つめられるのは無理だ、と優奈は元気さをアピールし、ニコリと笑ってみせた。
(嘘じゃないし)
確かに食欲がなく、ここ最近口にするのはゼリーだけだったが。
気分が悪くなるのは今日のように会社でのことを振り返っている時か、出社する前。
もしくは、この間のように飲み過ぎたり、気持ちが昂った時のようだ。
「それなら、いいんだが……もう一度病院には行ってくれ」
雅人は、それはそれは、とても辛そうに顔を歪ませ懇願するよう優奈に言った後。
ふと、視線を動かした。そして、キツく睨みつける。
(……今度は何)
身体の怠さも重なり諦めの境地。
黙ったまま雅人が次に発する言葉を待っていると。