愛しのフェイクディスタンス
「あの環境下で、取引先からの優奈の評判はどこからも上々だった」
「取引先?」
またまた話が飛んだ。
それに着いていかなければならない優奈の心は、目が回りそうな忙しさだ。
「何年間も黙々と耐えて、手を抜かず真面目に仕事をしてきた証拠だ」
「……いや、それは多分違う」
(退屈な大人に成り下がった自分から目を逸らしていただけ……)
言葉にすることはできず、雅人の言葉を素直に受け取ることはできない。そんな優奈のプライドを踏みつけるのも握り潰すのも雅人の存在。
しかし。
「俺は、そんなお前が欲しい」
奮い立たせ、輝かせるのもまた、彼なのだろう。
「正直な、あんなところに一分一秒でも、お前の時間をくれてやる気はない」
「欲しいって……」
戸惑いながら優奈が聞き返せば、当たり前だろうと言わんばかりに堂々とした声が。
「ああ、欲しいよ。素晴らしい人材として、今すぐに俺は優奈が欲しい」
(……心臓に悪い)
都合の良い部分だけを大きく聴き取り、悔しい程に高鳴る胸の奥。
砕け散った初恋は、破片をそのまま優奈の内に残していたかのようで。
「俺を関わらせてもらえるな?」
「…………うちの子を辞めさせてくださいって乗り込んでくるモンペとか何かのドラマで見たよ……笑いものじゃん」
胸の中で疼く破片は、渇いていたはずの心臓を刺して、血を滴らせているよう。
まるで生き返らせるみたいに。
その熱さを誤魔化すように口を尖らせ拗ねたように言った。
すると雅人は、愉快そうに、ホッとしたように声を出して笑う。
「はは、そんな乗り込み方はしないだろ。あくまで正当防衛だ」
「ええ……?」
よくわからない理屈に、優奈は肩の力が抜けた気がした。再会してから、まるでジェットコースターのような速さで世界が動く。
目の前で微笑む雅人は、昔のままのようで、やはりどこか違っていて。会わないでいた七年の月日を想った。