愛しのフェイクディスタンス

「まぁ。そうはならない自信があるぞ。そして別に禁欲するつもりはない、今まで通り女とは外で会う」
「い、いやだ! てゆうかやっぱ恋人がいるの!?」
「いない」
「え!? なのに禁欲しないで女の人と会うの?」
「……男なんてそんなものだぞ。嫌になったか?」

 嫌になったと言わせたい、そんな挑発的な目を向けられて「もちろんです」とは、言うものか。

 近くにいるということは、そういった彼が帰ってこない夜の虚しさも受け入れなければいけないということだ。それも、優奈の気持ちは受け入れられないままに。

 嫌だ。嫌でたまらない。
 けれど、この提案、優奈のメリットの方が明らかに大きいのだ。というか、ほぼ優奈にしかメリットがない。

「……嫌だけど、でも、そうか」
「ん?」
「まーくんが私に会いたくてまっすぐ帰ってくるようにすればいいのか!」
「そうだそうだ、さすが優奈だな。話が早い」
「しかもこれから職場も一緒!」
「……そうそう、一緒……だ。だからお前はちゃんと食べて、まずは健康第一に」
「まーくんは細い方が好き? 多少はお肉のぷにっと感ほしい?」
「は?」
「下着はどんなのが好きなの? 昔部屋に忍び込んで見つけたエッチな本とかは派手な下着で巨乳の美女が多かったけど、今も好き?」
「ま。待て……」

 テーブルに乗り上がる勢いで目を輝かせる優奈を、後ずさりながら眺める雅人。その表情が徐々に強張っていく。

「どうしよう、私、まーくん好きだったこと思い出してきたら死ぬほど元気になってきた!」」
「い、いや優奈が元気になってくれるなら……それは、いいんだけど」

 優奈はもう、うなだれる雅人の心中を理解しないほど子供ではない。けれど、理解しないふりをする。
 妹だと拒否され続けている自分が使える唯一で、そして最大の武器じゃないか。

(否定ばっかしてたら消えちゃうよ、ほんとの私)

 閉じ込めてた想いが弾かれたように身体中から溢れ出す。
 無理やり作った距離は、見たくない自分から、そして雅人から逃げるための見せかけで。本当はずっと、ダメな自分も含めて認めたかった。

 優奈が優奈でい続けるための条件。
 心が枯れてしまわないための条件。

 それは、雅人への恋心。

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