愛しのフェイクディスタンス
描くもの
「えーっと、俺そろそろ喋ってもいいか?」
突然の声。
驚き、声を上げた優奈とは対照的に、落ち着きながらも冷ややかな目を向けた雅人。
「何しに来たんだ」
「おっとー。顔、顔。こえーっすよ」
ドアにもたれ掛かるように、そしてこちらを観察するように。
ニヤニヤと腹の立つ笑顔で立っていたのは琥太郎だ。
「……二度言わせるな。何をしに来たかって聞いてるんだよ」
「いやぁ、酷くね? お迎えだっつーの。お仕事ね。もうそろそろ時間だけどお前連絡つかねぇからよ」
「ああ、もうそんな時間か」
「あー? この俺様がコキ使われてまでサボらしてやったのに何だそりゃ」
雅人が軽く舌打ちをしながら立ち上がると、琥太郎は愉快そうに耳元でからかうような声でささやく。
そして人差し指でくるくると見せつけるようにこの部屋の鍵をまわした。
「なぁなぁ、お前が起きなかった時用に預かってたけど。これ返した方がいいな?」
「は?」
「勝手に入ってこの子が着替えでもしてたら大変だろ」
ククッと笑いながら肩に寄り掛かる男を押し退けながら、雅人はギロリと睨みつけた。
「……お前どこから聞いてたんだ。声掛けろよ」
そして、怒りをふんだんに含ませた声でそう言ったなら、座っていたはずの優奈がすぐ背後まで走り寄ってきてしまう。
失敗した。と、思ったけれどもう遅い。
今の流れでこんな不機嫌さを滲ませて、ましてや今の会話を聞かせてしまった。どう解釈するかなど考えるまでもない。