愛しのフェイクディスタンス
はじまりと、もういちど



(……マジで帰ってこないじゃん)


 
 優奈が雅人宅に居候することになって、早くも二日が経った。
 一人でいるには無駄に広い部屋で優奈はひとり不満げに口を尖らせる。
 
 この二日間。
 優奈はアパートの退居手続きや引っ越し準備で忙しなくしていたのだが、早く感じるのはその忙しさのせいだけではない。
 あんなに浮かれて雅人が困ることも承知の上で、しつこい何度目かわからない告白をしたというのに。

(全然会えないって……ヤバくない?)

 雅人は自宅マンションへは、どうやら短い睡眠を取りに帰ってきているだけのようだ。
 電話をしながら帰宅した際に寝てるふりをして盗み聞きをした限りでは。
 ”ここ最近は後に回せそうな予定は全てそうしてきたのだから仕方がない。” などと、話しているのを聞いた。
 なるほど、普段以上に忙しいのは確定のようだと思ったところで、次は申し訳なさがこみ上げてくる。
 
 優奈に意地悪な顔をして"禁欲はしない"などと言ってはいたが。
 禁欲せざるを得ない状況だということで。

(そんでもって、それ、百パーセント私のせいじゃんね)

 社長というものがどんなふうに多忙なのかは、経験の無い優奈にはわからない。
 けれど、何日も何時間も優奈の為に時間を作ってくれていたのだ。
 その”時間”が、昨日一昨日の雅人の生活っぷりを見る限り自然に舞い込んできたものとは到底思えない。

 それなのに何もせず雅人の部屋でぬくぬくと休暇を満喫しているんだなんて。
 それこそ”妹”だ。
 しかも出来の悪い。

 片想いをもう一度頑張る、とは具体的に何をするのだと。
 首を傾げる。
 そうして考えてみても学生の頃、失恋を繰り返していた頃と全く変化のない”頑張り”しか思い浮かばない時点で詰んでいるし、何なら同じ失敗を繰り返してしまいそうな予感しかしない。

(なら、とりあえず今って素直にまーくんの身体の心配しておくに限る?)

 雅人が優奈を案じたように優奈だって同じ気持ちだ。
 
 よし! と思い立った優奈は財布の中にお金が入っていることを確認し、少し歩いた先にあるスーパーマーケットに買い物へ出ることにした。
< 59 / 139 >

この作品をシェア

pagetop