愛しのフェイクディスタンス
夜遅くに帰ってくるのだろうから、軽めのものを作ろうか。
久しぶりにゆっくりと雅人のことを思い返す。
そういえば昔から牛肉は嫌いだと言っていたし、鶏肉が好きだったような気がする。
なかでもサラダチキンは大好きだったような。
でも、サラダだけ出されても眠かったら食べてくれないかな。
それなら……と。
優奈は買い物かごにレタスやトマト、卵に鶏肉、そして食パン。
とりあえずレタスを挟みまくったサンドウィッチにしようと決めた。
疲れていてもちょっと食べてみようかなって手を伸ばして、さっと食べられるし。という安直な考えだ。
(それにしても、スーパーゆっくり歩くとか久しぶり?)
こんなふうにゆっくりと買い物をすること自体が、実家を出てからは初めてのことだった。
それだけ仕事……いや、あの会社に追い込まれてしまっていたんだろう。
そして何より、無理に優奈の一部と化していた雅人への想いを押し込んで消してしまおうと思っていたことも自分を追い込んだ原因に違いない。
雅人との時間を穏やかに思い返すことも、その雅人の為の手料理を考えることも。
数年前までは当たり前だったものを受け入れるだけで、こんなにも心は穏やかになる。
そんな優奈に戻してくれたのも、また雅人なのだから。
(落ちぶれまくってても、まーくんはバカにしたりしなかったもんね)
これはきっと神様が”もう一度頑張ってもいいよ”と言ってくれたに違いない。
などと都合の良い解釈までできるようになっていた。
叶うこと叶えることだけがゴールであって、そして幸せなのだと優奈はずっと思っていたけれど。
(でも違うのかな)
自分の心に正直でいられることが何よりも幸せなことなのかもしれない。